来週、誰かに話を聞くことになった。社内報を任された。広報になって社員インタビューをすることになった。学校の課題で、地域の人に話を聞くことになった。取材なんてしたことがないのに。
そういう状況の方に向けて、企画から公開までの手順をひととおり書きました。インタビューは才能ではなく手順です。手順を知っていれば、初めてでもかなりのところまで行けます。
私たちは無名人インタビューという活動で、2020年から1,500件以上、ごく普通の人たちの話を聞いてきました。インタビュアーはほとんどが未経験から始めた人たちです。それでも「スッキリした」「頭が整理された」という声をよくいただきます。
来週が本番の人へ。ここだけ読めば間に合います
長いので、先に要点だけ書きます。
- 目的を1行で書く(→ 1章)
- 広い質問を3つだけ用意する(→ 2章)
- 最初の3分で言うことを決めておく(→ 3章)
- 「すごい」「つまり」「私も」を言わない(→ 3章)
- 取材の翌日と翌々日を、文字起こしと編集のために空けておく(→ 4〜5章)
この5つが押さえられていれば、大きくは外しません。残りは、余裕があるときに読んでください。
全体の流れは8つ
インタビューの仕事は、次の8段階に分かれます。
- 企画:何のために、誰に、何を聞くかを決める
- 設計:当日の質問を用意する
- インタビュー本番:実際に会って話を聞く
- 文字起こし:録音を文字にする
- 編集:記事の形に整える
- 校正:誤りがないか確認する
- 掲載:公開する
- 分析:話の中身を読み解く
初めての方がいちばん時間を取られるのは、本番ではなく、4の文字起こしと5の編集です。60分のインタビューを記事にするのに、まるまる1日かかると思っておいてください。スケジュールを立てるときは、そこを見込みます。
0|依頼:先に決めておくこと
手順の前に、相手に連絡するところから始まります。依頼のときに次の5つを伝えておくと、当日と、そのあとが楽になります。
- 何のための取材か(どこに載るのか、誰が読むのか)
- どれくらい時間をいただくか(終わりの時刻まで書く)
- 録音させてもらいたいこと(理由もひとこと。「正確に書き起こすため」で十分です)
- 公開前に原稿を見てもらうこと
- 原稿確認でお願いする範囲(「事実の誤りと、載せたくない箇所を直します」)
最後の1つを先に決めておかないと、公開直前に全面的な書き直しを求められて詰みます。ここは必ず、事前に。
質問リストを事前に送るかどうかは、目的によります。答えを準備してきてほしいなら送る。その場で考えてほしいなら送らない。無名人インタビューでは、新鮮さを保つために送りません。
1|企画:目的を1行で書く
最初に決めるのは、何のためにこのインタビューをするのか、です。
ここが曖昧なまま進むと、当日どの話を追えばいいのか分からなくなります。相手が面白い話をしてくれても、それが記事に必要な話なのか判断できない。結果、全部を薄く聞いて終わります。
目的は、1行で書けるところまで絞ってください。
- ×「新入社員のことを知ってもらう記事」
- ○「新入社員が入社3か月で何に戸惑ったかを、来年の候補者に伝える記事」
後者なら、当日「戸惑ったこと」の話が出たときに、そこに留まる判断ができます。
企画で決めることは5つです。
- 目的:何のためにやるのか(上記)
- 相手:誰に聞くのか。目的に照らして、その人の経験や視点が役に立つか
- テーマ:何について聞くのか。読む人にとって意味のある話題か
- 形式:対面か、オンラインか、電話か。一人か、複数人か
- 日時と場所:相手の都合が最優先。時間は余裕をもって取る
時間について補足します。60分もらえるなら60分で組んでください。30分しかもらえないなら、話題は1つに絞ります。あれもこれも聞こうとすると、30分では確実に一問一答になります。
2|設計:質問リストは3問でいい
多くの人が、ここで20問も30問も用意します。そして当日、それを順番に読み上げて一問一答で終わります。
質問リストは台本ではなく、保険です。
用意するのは、目的1行と、広い質問を3つ。それで60分は持ちます。
「広い質問」というのは、内容を指定しない質問のことです。答えを決めつけていない、という点が肝で、そこは人の話が聞けないのは性格じゃないに書いたとおりです。たとえば「ざっくり、今どんな感じですか?」。15文字しかありません。長く仕事を続けているある方にこれを聞いたインタビューでは、1,693文字の答えが返ってきました。
この5年間で500名、500社ほどコンサルいたしまして。特にですね、個人、女性の方で無名の専業主婦から、稼ぐ起業家になったとか、あと有名アーティスト、アーティストといっても歌音楽の方ではなくて、イラストレーターさんとか造形作家さんとか、制作物を作る方たちなんですけど、ちょっと有名になったとか。
── 自分で決めたことをやっていく人(無名人インタビュー)
もし「何年目ですか」「何社ですか」と具体的に聞いていたら、返ってくるのは年数と社数の数字だけだったはずです。広い質問は、相手が話す場所を自分で選べるようにします。
事前調査は、その人が公開しているものを一通り見る程度で十分です。調べすぎると、知っていることを確認する質問ばかりになります。
ただし、これは無名の個人に人生を聞く場合の話です。企業や団体への取材、実名で公開する記事では、逆に調べ尽くしてください。過去のリリース、決算、直近の発言。裏を取らずに出すと事故ります。
質問リストの作り方はインタビューの質問リストのつくり方に詳しく書きました。
3|インタビュー本番
当日です。持っていくものは、録音機(スマートフォンで十分です)、メモ、質問リスト。リストは机に伏せておいて、話が止まったときだけ見ます。
### 最初の3分に言うこと
席に着いたら、質問を始める前にこの4つを口に出してください。そのまま読んで構いません。
- 「今日はお時間ありがとうございます。◯月号の社内報で、◯◯さんが普段どんな仕事をされているかを紹介する記事を作ります」(目的)
- 「40分ほどいただきます」(終わりの時刻を先に言う。相手が安心します)
- 「あとで正確に書き起こしたいので、録音させてください。記事を書くためだけに使います」(録音の許可)
- 「記事は公開前に必ずお見せします。事実の誤りと、載せたくないところは直します」(出口の保証)
4つ目がいちばん効きます。あとから直せると分かった相手は、はじめて踏み込んだ話をしてくれます。
### 話題を変えない
本番でいちばん大事なのは、話題を変えないことです。
インタビューが浅くなるのは、質問が下手だからではありません。ひとつの話題に留まる回数が足りないからです。ある記事では、インタビュアーが4回の質問で合計50文字しか話していないのに、語り手は1,666文字話しています。その最後の質問はこれでした。
「なんで、そうなれたんですか?」
きっかけは、7ヶ月前、去年の11月ぐらいに、上司とめちゃくちゃぶつかって。ぶつかったっていうか、今までにないぐらい理不尽なことを自分に言われたなっていうのを自分で認識してて。 私、今まで看護師してたときも、同じような構図で転職してたんですよ。
── 母の価値観で生きてきた人(無名人インタビュー)
この質問は、事前には作れません。「そうなれた」という状態が前の3往復で出てこなければ、存在しない質問だからです。
重ねる順番は、私たちが物語質問と呼んでいる4つです。出来事、感情、きっかけ、それから。詳しくは質問が思いつかない人のための、たった4つの質問に書いています。
重ね方と、相手が乗ってこないときの入り方はインタビューで話を深掘りするコツに、沈黙の扱いは沈黙が怖い人へ。待つ技術に書いています。
### やってはいけない3つの返し
本番で失敗するパターンは、だいたい3つに集約されます。
- 感想を言ってしまう。「そんなに食べてるんですか。すごい」
- 上手いことまとめてしまう。「まさに万能選手ですよね」
- 自分の話をしてしまう。「私も実は同じことをしていて」
どれも会話としては感じのいい返しです。でも、この瞬間に話の中心が相手からこちらへ移ります。移った中心はなかなか戻りません。
対処はひとつで、言いたくなったら質問に変えることです。詳しくはインタビューでやってはいけない3つの返しに書きました。
### 当日の実務
- 録音する。メモに集中すると相手を見られなくなります。機内モードにして、充電を満タンにして、相手との真ん中に画面を上にして置く。開始10秒で一度止めて再生し、音が入っているか確かめてください。ここで確かめれば、失敗しても撮り直せます。録音の失敗だけは、取り返しがつきません
- メモは質問だけ書く。時間・キーワード・質問を短く書いて、話が一段落してから聞きます
- 60分なら話題は3つ。1話題20分あれば4〜5往復は重ねられます。話題を10個用意すると、ほぼ確実に一問一答になります
### 終わり方
残り5分になったら、この2つを聞いて締めます。
- 「最後に、聞いておいたほうがいいのに私が聞けていないこと、ありますか」
- 「今日話したことの中で、記事にしないでほしいところはありますか」
2つ目は必ず聞いてください。ここで線を引いておくと、編集中に「これは載せていいのか」で悩む時間がまるごと消えます。
帰り際に、原稿を送る日と公開予定日を口で伝えます。そして写真を撮ります。話し終えた直後の顔がいちばんいいので、「最後に一枚だけ」と言ってその場で撮ってください。写真は、あとで必ず「撮っておいてよかった」となります。
4|文字起こし:まず全部やる
終わったら、録音を文字にします。面倒でも最初は全部起こしてください。要点メモ方式にすると、あとで探しものに時間を取られます。
- 質問も答えも、笑い・ため息・沈黙も含めて残す
- 聞き取れなかったところは「(聞き取り不能)」と書く。推測で埋めない
- 方言・スラング・専門用語はそのまま残す
- 誰の発言か分かるようにする
- 個人的な話が含まれるので、共有範囲を決めてから作業する
自動文字起こしのツールを使って構いません。ただし固有名詞と、感情がこもって早口になった箇所はたいてい間違っています。そこは聞き直してください。だいたい、そこがいちばんいいことを言っている箇所です。
5|編集:何を残すかを決める
60分のインタビューは2万字前後になります。社内報や広報記事にするなら、使えるのはその5分の1くらい。枠が1,200字なら20分の1です。
編集は、削る作業ではなく、何を残すかを決める作業です。削る発想でいくと、読みやすいけれど誰の話でもない文章ができあがります。
見せ方には3つの方式があります。
- 対話型:聞き手と語り手、両方の名前が出る。会話の呼吸がそのまま残る
- 黒子型:インタビュアーの名前だけを隠し、質問は「───」で示す。雑誌の取材記事でいちばんよく見る形
- 天の声型:名前が消え、書き手が地の文で書いていく。相手の発言も多くは要約し、キーになる一言だけを残す
迷ったら黒子型で外しません。
そして、話し言葉をどこまで直すかが最大の判断どころです。基準はひとつ、その崩れが意味ではなく状態を伝えているなら残す。
食べ物……食べ物か。昔はもう唐揚げ一択だったんですけど、最近は油物を本当取らなくなって。好きな食べ物か……なんだろうな。え、なんだろう? 改めて聞かれると難しいですね。
── 妻にありがとうを伝えたい人(無名人インタビュー)
整えれば「好きな食べ物は牛乳と白米です」の一行です。読みやすくなり、この人はいなくなります。
編集の詳しい話はインタビューの文字起こしと編集の仕方に書きました。
6|校正:一晩置いてから読む
編集が終わったら、別の目で読み直します。理想は自分以外の人。一人でやるなら一晩空けてください。
誤字脱字と表記のゆれ、トーンが揃っているか、読んでいて詰まるところはないか、日付・人名・地名・会社名・数字といった事実、見た目。この5点を見ます。
そして、公開前に本人に見てもらってください。話したときは言ってもいいと思ったことが、文字になると印象が変わることがあります。
7|掲載:どこに、いつ出すか
- 場所:読んでほしい人がどこで情報を得ているか
- タイミング:関連する行事や記念日があるなら、そこに合わせる
- 写真や図:あると読まれやすくなります。当日撮っておいてください
- タイトル:いちばん時間をかけていい部分です。本文中の、その人にしか言えない一言を使うのが手堅い
- 読みやすさ:文字の大きさ、行間、リンクが正しく動くか
8|分析:話の中身を読み解く
出して終わりにしないでください。取材した内容そのものを、あらためて読み解く工程です。
- 整理する:文字起こしを読み返し、重要な点や特徴的な発言を拾い出す
- テーマを見つける:拾った箇所に共通するもの、繰り返し出てくるものを探す
- 解釈する:それが何を意味するのかを考える
- 見えるようにする:必要なら、図や一覧にまとめる
- 結論を出す:企画で書いた目的に対して、何が分かったのかを言葉にする
複数の人に同じテーマで聞いたときは、ここがいちばん価値のある工程になります。1本でも、自分の質問のどれが効いてどれが空振りしたかは分かります。録音を聞き直すのは気恥ずかしいのですが、いちばん効きます。
最後に:うまくやろうとしないこと
手順を8つ並べましたが、いちばん大事なことは手順の外にあります。
うまく聞こうとすると、気の利いた質問を考えはじめます。考えているあいだ、相手の話は耳に入っていません。そして、考えた質問はたいてい、相手が今話していることとずれています。
インタビューがうまくいくときの聞き手は、うまいことを言っていません。「何歳?」「なんで?」「それはどういうことですか」。短く置いて、あとは待っています。手が空いているから、相手の言葉を拾えます。
初めてなら、次の3つだけ守れば形になります。
- 目的を1行で書く。当日、どの話を追うか判断できるようになります
- 質問は3つでいい。残りは当日、相手の言葉から作ります
- 話題を変えない。同じ話に3回以上、質問を重ねてください
そして、感想を言いたくなったら質問に変える。まとめたくなったら具体を聞く。自分の話をしたくなったら、相手のことを聞く。
特別な才能は要りません。これは性格ではなく、技術の話です。
無名人インタビューについて
無名人インタビューは、2020年から続く一般の方へのインタビュー活動です。約20名のインタビュアーが年間約400件、これまでに1,500件以上のインタビューを記事にしてきました。この記事の引用はすべて公開済みのインタビュー記事からのものです(×の例は、説明のために作った架空のやりとりです)。
- インタビューを受けてみたい方:インタビューを受ける
- 聞き方を練習してみたい方:聞く学校(無料・オンライン)で、実際のインタビューを見て話し合っています
聞くことは愛すること。
公開

