無名人時計
COLUMN

沈黙が怖い人へ。待つ技術

会話の中で沈黙が訪れると、いたたまれなくなる。3秒が限界で、何か言って埋めてしまう。質問を重ねたり、話題を変えたり、自分の話を始めたり。

沈黙が怖いのは、沈黙を「失敗」だと思っているからです。会話が途切れた。場が凍った。自分のせいだ——。

でも、1,500件のインタビューを重ねてわかったことがあります。沈黙は失敗ではありません。むしろ、一番いい言葉が生まれる直前の時間です。

昆布のだしは、すぐには出ない

料理にたとえます。昆布のだしは、お湯に入れた瞬間には出ません。じっくり待って、初めて出てきます。火を強くしても、かき混ぜても、早くはなりません。待つしかない。

人の言葉も同じです。表面にある言葉——用意してあった答え、いつも話していること——は、すぐに出てきます。でも、その人がまだ一度も言葉にしたことのないものは、探す時間が要ります。沈黙とは、相手がいま、自分の中を探しに行っている時間です。

そこで聞き手が沈黙に耐えられず口を挟むと、どうなるか。探しに行っていた相手は、手ぶらで呼び戻されます。だしが出る前に、昆布を引き上げてしまうのです。

「うーん……」の後に、何が来るか

実際の場面を見てください。「これをするまで死ねないみたいなものはありますか?」という質問を受けた方の答えです。沈黙まで含めて、そのまま引用します。

語り手:まず、ここまでの流れで言うとお店を作るのが一つで。 うーん…確かにあんまり考えたことなかったです。 うーん…… 今、出身の神戸を離れて東京に来て、今までお世話になった人と割と疎遠になってしまったんですけど、もう一回会いたいなって今ふと思いました。

── 何が起こるかわかってなくてでも楽しそうな人(無名人インタビュー)

「うーん……」がふたつ。この間、聞き手は何も言っていません。ただ待ちました。そして沈黙の向こうから出てきたのは、用意された答えではなく、「お世話になった人にもう一回会いたい」という、その場で生まれた本音でした。この後、話は高校の担任の先生へと続いていきます。

もし聞き手が最初の「うーん…」で「難しい質問でしたかね、じゃあ次に」と埋めていたら、この言葉は永遠に生まれていません。

沈黙の後に、核心が来る

もうふたつ、短い例を。価値観の核心を問われた方の答えです。

語り手:なんでだろうな自分が優しくしてもらったりするとやっぱりすごいありがたいと思ったっていうのもありますし・・・。 優しくない人もたくさん世の中で見てきたので。 やっぱ優しい人って本当の意味で強いなって思ったんです。

── 優しく強く社会に怒り続けていきたい人(無名人インタビュー)

「・・・」の後に、「優しい人は本当の意味で強い」という、この方の人生の結論のような一文が立ち上がっています。

そして、沈黙の後に来るのは、美しい言葉だけではありません。

聞き手:小学校ぐらいはどうでしたかね。

語り手:そうですね・・・ 単純に客観的に見た小学校生活っていう話をすると細かい話にはなりますけど小学校一年生入って早々、若干聞こえとしては暗い話になりますけど、いじめが始まりましたね。前途多難ですよ。

── プロゲーマーになろうと思ってた人(無名人インタビュー)

「そうですね・・・」の間に、この方は「この話をするかどうか」を決めています。重い記憶を話すには、助走が要ります。沈黙は、その助走です。聞き手が急かさなかったから、語り手は自分のペースで、自分のタイミングで、話し始めることができました。

待ち方のコツ

沈黙が怖い人のために、待ち方を具体的に書いておきます。

まず、沈黙の意味を読み替えてください。相手が黙った=考えている=質問が効いている。沈黙は、あなたの質問が相手の「まだ言葉になっていない場所」に届いた証拠です。浅い質問なら、即答されています。

次に、埋める役を降りてください。沈黙を破る権利は、探しに行っている本人にあります。あなたは、待っている間、うなずきも相槌も要りません。ただ、注意を切らさずにそこにいる。相手は、探しながらも、聞き手がまだそこにいるかどうかを感じています。

そして、目安として、自分の感覚の3倍待ってみてください。聞き手の3秒は、考えている本人にとっては一瞬です。あなたが「気まずい」と感じ始めてからが、相手にとっての本番です。

まとめ

沈黙は、会話の失敗ではなく、言葉の仕込み時間です。昆布のだしは、すぐには出ない。でも、待てば必ず出ます。そして待って出てきた言葉は、埋めて出てきた言葉より、いつも深い。

沈黙が怖くなったら、思い出してください。いま、相手は自分の中を探しに行っている。呼び戻さずに、待つ。それだけで、あなたは相当な聞き手です。


無名人インタビューについて

無名人インタビューは、2020年から続く一般の方へのインタビュー活動です。約20名のインタビュアーが年間約400件、これまでに1,500件以上のインタビューを記事にしてきました。この記事の引用はすべて公開済みのインタビュー記事からのものです。

聞くことは愛すること。

公開

栗林康弘

このコラムを書いた人

栗林康弘(qbc)

無名人インタビュー主宰/聞く学校 校長

2020年に無名人インタビューを始めました。自分で872人の話を聞き、423本を編集。いまは16人の制作メンバーとともに年間約400件のインタビューを行い、これまでにのべ132名が聞き手・編集として参加しています。公開した実例は1,500件以上。聞き方の体系として「平聴(フラットリスニング)」を提唱し、2026年に「聞く学校」を開きました。1978年生まれ。(2026年8月21日現在)

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