無名人時計
COLUMN

アドバイスしたくなる気持ちの手放し方

相談を受けると、つい解決策を言ってしまう。相手の話の途中で、もう答えが見えてしまって、早く教えてあげたくなる。言ったあとで、相手の顔が微妙に曇っているのに気づく——。

アドバイスしたくなるのは、悪いことではありません。役に立ちたいという善意です。でも、その善意が、相手から大事なものを奪っていることがあります。

自分で答えに辿り着く機会です。

助言ゼロの場で、答えは出る

私たちのインタビューには、アドバイスがありません。聞き手は質問と相槌だけで60分を進行します。その場で、何が起きるか。

うつ病の経験を語った方のインタビューです。幼少期の寂しさについての語りのあと、聞き手が、その話が治療の場で出ていたかを確認した場面です。

聞き手:それはうつ病の時とかに、そういう話はされていない?

語り手:いや、今気づいたので。その流れでお話していて。

── 理解のある彼くんになれなかった人(無名人インタビュー)

「今気づいたので」。カウンセリングの場でも出ていなかった気づきに、助言のひとつもないインタビューの場で、自力で辿り着いています。これは聞き手が優れていたからではありません。むしろ逆で、聞き手が何も差し出さなかったから、語り手が自分で探しに行ったのです。

もっと軽い例もあります。読書の好みという、何でもない話題です。

聞き手:どういうところが苦手なんですか?

語り手:わからない言葉が多すぎる。あと洋書も苦手なんですよね、適度にわからない言葉なら全然調べて読むんですけど。横文字も苦手なのかな。理解するのに、知らないことが一定を超えると、私は読むのにストレスを感じるのかっていうのを、今話しながら気づきました。

── 安心が正義みたいな人生だなって思う人(無名人インタビュー)

「今話しながら気づきました」。理由を問うオープン質問ひとつで、語り手は自分のストレスの構造を、自分で発見しています。別のインタビューでは、転機の話の中で語り手がこう漏らしました。

語り手:そうですねー。今喋ってて気づきました。笑

── 緩く楽しく熱い人の合う会社経営者の人(無名人インタビュー)

人は、話しながら気づきます。頭の中の完成品を出力しているのではなく、話すことで、その場で答えが生まれている。アドバイスとは、この生成が始まる直前に、外から完成品を投げ込む行為です。相手の中で育ちかけていた答えは、そこで止まります。

なぜ、言いたくなるのか

アドバイスしたくなるのは、あなたが出しゃばりだからではありません。反射だからです。

人は、相手の話を聞くと、必ず自分の中で何かが動きます。似た経験の記憶。自分ならこうする、という考え。正しそうな答え。聞くという入力に対して、自分が出力されそうになる。これは人間の仕様であって、意志の弱さではありません。

そして、自分の答えを言うのは、気持ちがいい。アドバイスの快感は、話す快感です。善意と、反射と、快感。この三つが後押ししてくるから、我慢だけで手放すのは難しいのです。

手放し方:アドバイスを、質問に変換する

そこで、おすすめは変換です。言いたくなったアドバイスを、質問の形に作り替える。

「転職したほうがいいよ」と言いたくなったら——「これからどうしたいと思ってるの?」

「それは相手に伝えるべきだよ」と言いたくなったら——「そのこと、相手はどう思ってるんだろうね?」

「こうすれば解決するのに」と言いたくなったら——「今まで、どんなことを試してみたの?」

アドバイスの中身は、実は質問の種です。あなたが「転職すべきだ」と思ったのは、相手の未来に何かを見たからです。なら、その未来を相手に聞けばいい。あなたの見立てを言う代わりに、あなたの見立てが生まれた場所を、相手に探してもらう。

答えが相手の口から出てきたとき、それはあなたのアドバイスと同じ内容かもしれません。でも、決定的に違います。自分で辿り着いた答えは、実行されます。人からもらった正解は、たいてい実行されません。人は、自分で転ばないと覚えないのです。

まとめ

アドバイスしたくなったら、思い出してください。答えは、相手の中で、いままさに育っている途中かもしれない。あなたの完成品を投げ込めば、それは止まる。質問に変換すれば、それは育つ。

役に立ちたいという気持ちは、そのままでいい。役の立ち方を、変えるだけです。教える人から、聞く人へ。


無名人インタビューについて

無名人インタビューは、2020年から続く一般の方へのインタビュー活動です。約20名のインタビュアーが年間約400件、これまでに1,500件以上のインタビューを記事にしてきました。この記事の引用はすべて公開済みのインタビュー記事からのものです。

聞くことは愛すること。

公開

栗林康弘

このコラムを書いた人

栗林康弘(qbc)

無名人インタビュー主宰/聞く学校 校長

2020年に無名人インタビューを始めました。自分で872人の話を聞き、423本を編集。いまは16人の制作メンバーとともに年間約400件のインタビューを行い、これまでにのべ132名が聞き手・編集として参加しています。公開した実例は1,500件以上。聞き方の体系として「平聴(フラットリスニング)」を提唱し、2026年に「聞く学校」を開きました。1978年生まれ。(2026年8月21日現在)

栗林康弘のプロフィール →
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