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COLUMN

「わかる」と言った瞬間、相手の言葉が死ぬ

「わかる、わかる」

「要するに、こういうことですよね」

「それって、〇〇ってことじゃない?」

会話の中で、こういう受け方をしていないでしょうか。ちゃんと聞いている証拠として、理解を示すために、良かれと思って。

私たちはこれを表現泥棒と呼んでいます。相手がこれから言おうとしていた言葉を、先回りして言ってしまう。相手の中で生まれかけていた表現を、聞き手が奪ってしまう行為です。

言葉は、話しながら生まれている

前提として、人は、頭の中にある完成品を口から出力しているのではありません。話しながら、その場で言葉を作っています。

その現場を見てください。「1人でいることはどうして好きなんですか?」という質問への答えです。

語り手:余計なことを考えなくて済むというか。多分面倒くさがりなんですよね。ふふふ。なんか、うん、面倒くさがり。ここまで考えたことなかったな。すごい新鮮。 今、頭に のんびりしたいっていうワードも、ぽんって浮かんできたんですけど。なんでだろう。ああ、そっか。のんびりしたいんだと思います。

── インタビューライターになろうって決めたときに、コミュニケーション苦手って思ってる自分のままじゃ駄目だって思ったのがきっかけで本当、自分をオープンにするようになった、人の話を、笑顔で、聞いてるおばあちゃん(無名人インタビュー)

「のんびりしたいっていうワードも、ぽんって浮かんできた」。言葉が生まれる瞬間が、そのまま記録されています。「面倒くさがり」から「のんびりしたい」へ。数十秒の間に、答えが育って、変わっています。

もしこの途中で聞き手が「一人が気楽ってことですよね」と要約していたら、どうなっていたか。語り手は「そうですね」と答えて、終わりです。「のんびりしたい」は、ぽんと浮かぶ前に消えていました。聞き手の言葉が、相手の言葉の生まれる場所を塞いだからです。

これが、表現泥棒です。盗んだ側に、悪気はまったくありません。それどころか、理解の表明という善行のつもりでいます。でも、起きていることは同じです。相手の言葉が、生まれる前に死んでいる。

相槌だけで待つと、言葉は育つ

では、どう受ければいいのか。何もしないことです。正確には、相槌だけを返して、相手の生成を待つことです。

子ども相手の仕事を選んだ理由を、自問しながら探している方の場面です。要約したくなるところで、聞き手は相槌しか返しません。

語り手:いつ頃だろう。そろばんの先生っていう仕事に行き着く前に何がやりたいんだろうってすごく考えてるときから、子供を相手にしたいなっていうのは思ってましたね。それはなんでなんだろう。今ね、そろばんの先生やってて子供の話を聞きたいと思うようになったって言っちゃいましたけど、その前から思ってましたね。

聞き手:そうなんですね。

語り手:子供相手に仕事したいと思ったんですよね、仕事探してるときに。多分、そろばんの生徒に限らずですね、自分も子供3人いるんですけれども、子育てしていく中で周りのお子さんのことを見るわけじゃないですか、やっぱり関わるから。うちの子は全く習い事していないんですよ。でも周りの人たちはめちゃくちゃ習い事をいくつもしてるのが当たり前で、そういうところに疑問を持ってたんですよね、ずっと。

── みんな話を聞いてほしいんじゃないかなって思う人(無名人インタビュー)

「そうなんですね」だけ。それで語り手は、自分の動機の源流へ、自分の足で降りていきます。聞き手が「子ども好きなんですね」とまとめていたら、この探索は始まっていません。

「自分の言葉」の値打ち

なぜ、そこまでして相手の言葉を待つのか。あるインタビューの最終盤に、その答えがありました。

語り手:でも普段考えなかったことを聞かれて、考えてみるっていう経験が自分の言葉だったかなと思います。

── 挑戦したというか手を出しては辞めた人(無名人インタビュー)

「自分の言葉」。人からもらった要約ではなく、借り物のフレーズでもなく、自分の中から出てきた言葉。人は、それを口にしたときに、初めて自分の考えに出会います。「スッキリした」「整理された」という感想の中身は、これです。

「わかる」という一言は、この体験を丸ごと奪います。あなたの理解が正しかったとしても、です。正解の要約を渡すことと、相手が自分の言葉に辿り着くことは、まったく別の出来事なのです。

まとめ

理解を示したくなったら、順番を思い出してください。相手の言葉が先、あなたの理解は後。相手がまだ探しているうちは、相槌だけで待つ。「わかる」の代わりに使えるのは、「というと?」「もう少し聞かせてください」です。理解の表明ではなく、理解したいという表明。それなら、相手の言葉は死にません。むしろ、育ちます。

あなたの語彙が豊かであるほど、表現泥棒のリスクは上がります。先に言えてしまうからです。聞き上手とは、言えるのに、言わない人のことです。


無名人インタビューについて

無名人インタビューは、2020年から続く一般の方へのインタビュー活動です。約20名のインタビュアーが年間約400件、これまでに1,500件以上のインタビューを記事にしてきました。この記事の引用はすべて公開済みのインタビュー記事からのものです。

聞くことは愛すること。

公開

栗林康弘

このコラムを書いた人

栗林康弘(qbc)

無名人インタビュー主宰/聞く学校 校長

2020年に無名人インタビューを始めました。自分で872人の話を聞き、423本を編集。いまは16人の制作メンバーとともに年間約400件のインタビューを行い、これまでにのべ132名が聞き手・編集として参加しています。公開した実例は1,500件以上。聞き方の体系として「平聴(フラットリスニング)」を提唱し、2026年に「聞く学校」を開きました。1978年生まれ。(2026年8月21日現在)

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