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COLUMN

人の話が聞けないのは性格じゃない。コツはひとつだけ

人の話を聞くのが苦手だ、と感じることはないでしょうか。聞いているつもりなのに、途中で自分の考え事が始まってしまう。気の利いた返しをしようとして、かえって話が止まってしまう。そういうことが続くと、自分は聞けない性格なんだ、と思いたくなります。

でも、これは性格の問題ではありません。

私たちは無名人インタビューという活動で、2020年から1,500件以上、ごく普通の人たちの話を聞いてきました。インタビュアーは全員、もともと「聞く」素人です。特別な才能を持った人はいません。それでも、聞かれた人たちは「スッキリした」「頭が整理された」と言って帰っていきます。

素人でも聞けるようになる。つまり、聞くことは性格ではなく技術です。そしてその技術の入り口は、たったひとつです。

決めつけないこと。

聞けなくなる仕組み

人の話が聞けなくなるのは、能力が足りないからではありません。むしろ逆で、頭が働きすぎるからです。

相手が話し始めた瞬間、私たちの頭の中では推測が始まります。この人はこう思っているんだろうな。こういう話なんだろうな。そして、その推測が質問に混ざります。

「それは楽しかったですか?」 「大変だったんじゃないですか?」

一見、感じのいい質問です。でもこれは、こちらの推測した感情の軸を、相手に先に渡してしまう質問です。相手は「はい、楽しかったです」と答えるしかなくなる。本当は「楽しい」以外の、もっと複雑な何かがあったとしても、それが言葉になる前に道が塞がれてしまいます。

決めつけの質問は、相手を縛ります。そして縛られた相手の話は、つまらなくなります。つまらないから、こちらも聞けなくなる。「聞けない」の正体は、この循環です。

10文字の質問で、自己認識が反転する

では、決めつけないとどうなるか。実際のインタビューを見てください。

2拠点生活からフルリモートへと、働き方を変え続けている方のインタビューです。インタビュアーが「選ぶものは、こういう傾向があるとか、ご自分で言えるものがありますか」と尋ねると、その方は「今まで自分が選んだことがない物を選んでるなとは思う」と答えました。そこでインタビュアーが置いた質問は、これだけです。

「それってなぜでしょうか?」

10文字です。推測も評価も入っていません。その直後に、こういう言葉が返ってきました。

そういう意味では、 不安定なものに興味があるというか、安定志向じゃないんでしょうね。安定志向だと自分で今、今の今まで思ってましたけど。むしろ不安定なことを楽しんでるというか、不安定なところから何か気づいたりとか発見があるということを喜びとしている自分がいるのかな、なんていうふうに今、気づきました。

── 「死にたいと思うんだったらそこで死ね」って言われたときに、死にたいぐらい自分が生きづらいと思っとうだけで本当は生きたいと思ってるんだって気づいた人(無名人インタビュー)

「今の今まで」自分は安定志向だと思っていた人の自己認識が、その場で反転しています。インタビュアーが何かうまいことを言ったわけではありません。決めつけずに「なぜ」と置いただけです。答えは、相手の中から出てきました。

4文字でも聞ける

聞く技術というと、話術の量を想像するかもしれません。豊富な語彙、気の利いた切り返し。でも実際は逆です。もっと短くても聞けます。

年内にやりたいことを熱っぽく語った方に、インタビュアーが返した質問です。

「20代は?」

4文字です。時間軸を広げただけで、感想も評価も足していません。返ってきた言葉はこうでした。

本当に目標とか立ててないんです。今気付きました。

── 絶対今後何があっても自分は幸せなんだろうなって(無名人インタビュー)

この方はこのあと、「いろんな人に会いたい」という自分の軸を、自分の言葉で見つけていきます。4文字の質問が、それを引き出しました。

聞くために必要なのは、足し算ではなく引き算です。うまい言葉を足すのではなく、決めつけを引く。それだけで、質問は10文字や4文字まで短くなり、それでも会話は深くなります。

決めつけない質問のつくり方

やり方は単純です。質問から、こちらの推測した感情と評価を抜きます。

「楽しかったですか?」ではなく「どうでしたか?」。 「大変だったんじゃないですか?」ではなく「そのとき、どんな気持ちでしたか?」。 相手の言葉が短くて先が見えないときは、「というと?」。

「どうでしたか」は、頼りない質問に見えるかもしれません。何も指定していないからです。でも、何も指定していないからこそ、相手は自分の言葉を探し始めます。指定した瞬間、相手はこちらの言葉に「はい」か「いいえ」で答える人になってしまう。指定しなければ、相手は自分の中を探しに行きます。時間がかかることもあります。その時間ごと、待ちます。

何も指定しない質問が、一番深い言葉を引き出す

最後にもうひとつ、実例を。無名人インタビューでは、終わりにいつも同じ質問をします。「最後に言い残したことはありますか」。テーマを何ひとつ指定しない、定型の質問です。

海外在住約20年の方のインタビューで、この定型質問に返ってきた言葉です。

qbcさんと話してて気づいたのは、自分の中に、日本の古い価値観をぶっ壊したいっていう気持ちがあるんだってことですね。実は。 言語化したことがなくて、気づいていなかった。だから本当、みんなもっと自由になっちゃえばって。

── 思春期ママの救世主 海外在住約20年の人(無名人インタビュー)

「言語化したことがなくて、気づいていなかった」。60分のインタビュー全体を貫いていた本人の動機が、一番最後の、何も指定しない質問のところで、初めて言葉になりました。

決めつけない質問は、その場しのぎのテクニックではありません。相手の中にまだ言葉になっていないものがある、という前提に立つ姿勢です。こちらが先に言葉にしてしまえば、それは生まれません。決めつけずに聞けば、相手自身の言葉で生まれてきます。

まとめ

人の話が聞けないのは、性格ではありません。質問に推測と評価を練り込む癖の問題で、癖は変えられます。

コツはひとつだけ。決めつけないこと。「楽しかったですか?」を「どうでしたか?」に変える。それだけで、相手の話は変わります。相手の話が変われば、聞くことは苦行ではなくなります。1,500件のインタビューが、それを証明しています。


無名人インタビューについて

無名人インタビューは、2020年から続く一般の方へのインタビュー活動です。約20名のインタビュアーが年間約400件、これまでに1,500件以上のインタビューを記事にしてきました。この記事の引用はすべて公開済みのインタビュー記事からのものです。

聞くことは愛すること。

公開

栗林康弘

このコラムを書いた人

栗林康弘(qbc)

無名人インタビュー主宰/聞く学校 校長

2020年に無名人インタビューを始めました。自分で872人の話を聞き、423本を編集。いまは16人の制作メンバーとともに年間約400件のインタビューを行い、これまでにのべ132名が聞き手・編集として参加しています。公開した実例は1,500件以上。聞き方の体系として「平聴(フラットリスニング)」を提唱し、2026年に「聞く学校」を開きました。1978年生まれ。(2026年8月21日現在)

栗林康弘のプロフィール →
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