60分のインタビューを文字にすると、だいたい2万字前後になります。ここから記事にしていくのですが、実際に時間を取られるのは、本番よりもこの作業です。何を落とし、何を残すか。その判断が記事の出来を決めます。
編集の話をするとき、私たちが最初に共有しているのはこれです。
編集とは、削ることではなく、どこを残すかを決めることです。
似ているようで逆です。削る発想でいくと、読みやすいけれど誰の話でもない文章ができあがります。
インタビュー全体の手順はインタビューの仕方|急に取材することになった人のための手順にまとめています。この記事は、そのうち文字起こし以降だけを詳しく扱います。取材が終わってから読んでいただくのがちょうどいい内容です。
文字起こしは、まず全部やる
面倒でも、最初は全部起こしてください。要点だけメモする方式にすると、あとで探しものに時間を取られます。
起こすときのポイントは5つです。
- 全部を記録する。質問も答えも、笑い・ため息・長い沈黙も含めて残します
- 分からないところは分からないと書く。聞き取れなかった箇所は「(聞き取り不能)」と明記します。推測で埋めない
- 方言・スラング・専門用語はそのまま。標準語に直すと、その人ではなくなります
- 誰の発言か分かるようにする。話者を必ず区別して書きます
- 扱いに気をつける。個人的な話が含まれます。共有範囲を決めてから作業してください
いまは自動文字起こしのツールが使えます。ただし、固有名詞と、感情がこもって早口になった箇所は、たいてい間違っています。そこはご自分で聞き直してください。だいたい、いちばんいいことを言っているのはその箇所です。
締切が近くて全文起こす時間がない場合は、録音を1.5倍速で通して聞き、使いたい場面の前後だけを起こしてください。その場合も、使う場面は必ず全文で起こします。抜き書きだけで記事にすると、前後の文脈を落とします。
対話型・黒子型・天の声型。どれで見せるか
文字起こしができたら、どの形で記事にするかを決めます。大きく3つあります。
同じ場面を3通りに組んでみます。素材は、週に一度ヨガとサウナに通っているという方のインタビューです。
1|対話型
聞き手と語り手、両方の名前が出る形です。無名人インタビューはこの方式を使っています。
聞き手:サウナや温泉を楽しまれているときはどんなところを楽しんでいますか。
語り手:普段ってどうしてもスマホとかデジタルに日常の、なんだろな。ついついそういう時間がスマホ時間が長くなっちゃうんですよね。だから時間があるとか、ちょっと暇があるとすぐスマホを見ちゃったりとかして、よくないなと思うんですけど。
── 今に集中して目の前のことを淡々とこなしていくことできっと幸せな人生になるんじゃないかなって思う人(無名人インタビュー)
(実際の記事では「聞き手」「語り手」の位置に、それぞれの名前が入ります)
会話の呼吸がそのまま残ります。質問と答えの関係が見えるので、読者は「この質問だからこの答えが出たのか」まで読めます。一方で聞き手が常に画面にいるので、語りだけに集中させたい記事には向きません。
2|黒子型
インタビュアーの名前を隠す形です。それだけです。質問は「───」で示し、答えには語り手の名前が残ります。
───サウナや温泉を楽しまれているときはどんなところを楽しんでいますか。
語り手:普段ってどうしてもスマホとかデジタルに日常の、なんだろな。ついついそういう時間がスマホ時間が長くなっちゃうんですよね。
雑誌の取材記事でいちばんよく見る形です。聞き手が黒子に徹するので、読者の視線は語り手に集まります。質問は残るので話の道筋も見えます。迷ったらこれを選べば、まず外しません。
3|天の声型
聞き手の名前が消え、書き手が地の文で書いていく形です。質問文は残すこともあれば、地の文に溶かして消すこともあります。相手の発言も、多くは地の文に溶かして要約し、キーになる一言だけを言ったままの形で残します。話し言葉の記録というより、書き言葉の文章が中心になります。
週に一度、火曜日の夜にヨガに通う。終わったあとは、同じ建物にある温泉とサウナへ。それがいまの趣味だという。
何がいいのか。ひとつは、スマホに触れない時間が強制的にできることだ。少しでも暇があると見てしまう、よくないなと思っていた。ヨガの最中も、サウナの中も、スマホはいじれない。次に何をしようとか、今日はここだったかとか、そういう考えごとからも離れられる。
「無心になれるっていうんですかね」
文章としてはいちばん強い形です。読み物として整うので、雑誌の人物ルポや書籍でよく使われます。
ただし、地の文を書くのは書き手なので、書き手の解釈がそのまま入ります。要約した瞬間に、その人の言い回しは消えます。手を入れすぎると、その人の話ではなく書き手の作文になっていく。3つの中でいちばん力量が要る形です。
※上の黒子型と天の声型は、実際には対話型で公開されている記事を、方式の説明のために組み替えたものです。天の声型の地の文は、同じインタビューの発言をもとに要約したもので、「無心になれるっていうんですかね」だけが本人の言葉のままです。
どれを選ぶかは、誰の記事にしたいかで決まります。対談として読ませたいなら対話型、その人の話として読ませたいなら黒子型か天の声型です。
話し言葉をどこまで直すか。整えると消えるもの
編集でいちばん迷うのは、ここです。
原則としては、読みにくいだけの繰り返しやフィラー(「えー」「あの」)は落として構いません。でも、落とすと消えてしまうものがあります。
好きな食べものを聞かれた方の答えです。
食べ物……食べ物か。昔はもう唐揚げ一択だったんですけど、最近は油物を本当取らなくなって。好きな食べ物か……なんだろうな。え、なんだろう? 改めて聞かれると難しいですね。チョコレートも割と好きなんですけど、体重管理を半年ぐらいやってて遠ざかっちゃってるんで。牛乳は好きです。飲み物ですけど。牛乳はずっと好きですね。食べ物か……。白米は好きです。パンも好きです。僕その好きな食べ物って質問、割と苦手かもしれなくて。例えばですけど、唐揚げが好きですって言ったときに美味しい唐揚げとまずい唐揚げってあるわけじゃないですか。
── 妻にありがとうを伝えたい人(無名人インタビュー)
これを整えたら「好きな食べ物は牛乳と白米です」の一行になります。文章としては読みやすい。でも、この人がいなくなります。
「食べ物……食べ物か」「え、なんだろう?」という行きつ戻りつと、簡単に言い切れない律儀さ。そこがこの人です。
もうひとつ、はっきりする例を挙げます。お子さんの障害が分かった日について語られた箇所です。原文のまま引きます。
だからそのときに あっ、、絶対寝ないのも、色がもう真っ白で色素が本当にない、外国人の赤ちゃんみたいに瞳がブルーだったんですけど、そういうのも、お座りできないのも、変なけいれんを起こすのも、全部それのせいだっていうのがそのとき初めてわかって。
── 【毎日のごはん】でしあわせを創り出せることを伝え続け障害者支援事業に展開させたい人(無名人インタビュー)
「あっ、、」の読点二つ。文法としては崩れています。整えれば消えます。そして、整えた瞬間に、その日の混乱も消えます。
この崩れは、書き手が意図して作れるものではありません。だから残します。
判断の基準はひとつです。その崩れが、意味ではなく状態を伝えているなら残す。言い間違いや、単に喋り慣れていないだけの重複は直していい。考えている時間、言葉を探している時間、動揺している時間は、崩れのまま残す。
見分けがつかないときは、その部分を消した文章を読んでみてください。何も変わらなければ、消していい崩れです。
枠が短いときは、話題をひとつに絞る
社内報やお知らせの枠は、1,200字ということもあります。2万字から1,200字は、およそ20分の1です。
このとき、全体を薄く要約しないでください。読める記事になりません。
やることは逆です。2万字の中から話題をひとつ選び、その3〜4往復ぶんを丸ごと抜き出して、その中だけを整える。残りは全部落とします。いい話を全部入れようとして薄くするより、最後まで読める記事になります。
どの話題を選ぶかは、企画のときに書いた目的1行に戻って決めます。
校正は一晩置いてから。最後に本人に見てもらう
編集が終わったら、別の目で読み直します。理想は自分以外の人ですが、一人でやるなら一晩空けてください。
見るのはこの5点です。
- 誤字脱字、句読点、表記のゆれ
- 全体のトーンが揃っているか。前半だけ丁寧で後半が雑、というのがよくあります
- 読んでいて詰まるところがないか。詰まったら段落を割るか、接続詞を足します
- 事実の確認。日付、人名、地名、会社名、数字。ここは推測で書かない
- 見出し、文字の大きさ、余白といった見た目
そして、公開前に本人に見てもらってください。私たちは必ずこれをやっています。校正というより約束の問題です。話したときには言ってもいいと思ったことが、文字になると印象が変わることがあります。直したいと言われたら直す。それが次のインタビューにつながります。
ひとつ実務的なことを言うと、原稿確認の範囲は取材の前に決めておいてください。「事実の誤りと、載せたくない箇所を直します」と先に伝えておかないと、公開直前に全面的な書き直しを求められて詰みます。
まとめ
文字起こしと編集は、インタビューでいちばん地味で、いちばん時間のかかる工程です。
やることは3つに整理できます。まず全部起こす。どの方式で見せるかを決める。そして、何を残すかを決める。
編集で迷ったら、「これを直したら、この人がいなくなるか」と自分に聞いてください。いなくならないなら直していい。いなくなるなら、読みにくくても残す。
読みやすいけれど誰の話でもない記事と、少し読みにくくてもその人がいる記事。私たちは後者を選んでいます。
無名人インタビューについて
無名人インタビューは、2020年から続く一般の方へのインタビュー活動です。約20名のインタビュアーが年間約400件、これまでに1,500件以上のインタビューを記事にしてきました。この記事の引用はすべて公開済みのインタビュー記事からのものです(編集方式の例は、説明のために組み替えたものです)。
- インタビューを受けてみたい方:インタビューを受ける
- 聞き方を練習してみたい方:聞く学校(無料・オンライン)で、実際のインタビューを見て話し合っています
聞くことは愛すること。
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