無名人時計主宰の書斎
COLUMN

法則14 平らに聴く|傾聴や共感で疲れてしまう人へ。関心は全開、同調だけを切る

相手の気持ちに寄り添って、共感して、最後まで真剣に聴く。傾聴として教わったとおりにやっている。それなのに、やればやるほど疲れる。そんなことはないでしょうか。

聞き終わったあと、どっと消耗している。相手の重さが、こちらに残っている。人の話を聞くこと自体が、億劫になっていく。

そういうとき、「自分の共感力が足りないからだ」と考えてしまうかもしれません。でも、疲れる原因は、足りないことではなく、やりすぎていることかもしれません。

聞き方から考える話し方。法則14は、平らに聴くことです。

法則14 平らに聴く

関心は全開のまま、同調だけを切る。相手の感情は受け取るが、自分の身体で鳴らさない。

疲れるのは、二重の労働をしているから

傾聴という言葉には「傾」の字が入っています。相手に向かって、身体と心を傾ける。悲しい話なら一緒に沈み、うれしい話なら一緒に浮かぶ。

この「感情を寄せていく」動きは、コストの高い作業です。相手が悲しみを話すたびに、自分の中にも悲しみを再現する。60分続ければ、60分ぶんの他人の感情を、自分の身体で鳴らし続けたことになります。

もうひとつ、リアクションの労働があります。共感していることを、表情で、相槌で、言葉で示し続ける。「わかります」「大変でしたね」。相手のためというより、共感的な聞き手でいるための演技です。

感情の同調と、同調の表示。疲れるのは、この二つを「良い聞き方」だと思って全力でやっているからかもしれません。

聞き方から考える話し方 法則14 平らに聴く。関心は全開のまま、同調だけを切る。相手の感情は受け取るが、自分の身体で鳴らさない。× 相手の感情に一緒に沈む ○ 注意は全開、同調は切る

傾けずに、平らに聴く

傾けて聴くのが傾聴なら、傾けずに、平らなまま聴く。これを平聴(フラットリスニング)と呼びます。

疲れるからといって、聞く量を減らす必要はありません。音楽がうるさいからと音量をゼロにすれば、疲れは減っても、聞くことを失います。

切るのは、音量ではありません。相手への注意という音量は、フルのままです。切るのは、相手の感情を自分の身体で再生する回路だけです。

相手がいま悲しみを語っている、という情報は、完全に受け取ります。ただ、自分の身体で悲しみを鳴らしません。受信と再生は、別の機能です。

平聴は、無関心ではない

平聴は、心を閉じて聞き流すことではありません。

何を言ったか。どんな言葉を選んだか。どこで言い淀んだか。そこには全力で注意を払います。関心は最大です。

相手が悲しいときに、自分も悲しくなる。その回路だけを使いません。注意は全開、同調はゼロ。日常の聞き方にはあまりない組み合わせなので、最初は奇妙に感じるかもしれません。

平らな聞き手の前で

冷たく聞こえるでしょうか。話し手の側から考えてみます。

一緒に沈む聞き手の前では、「ごめんね、暗い話しちゃって」と、話し手が聞き手を気遣い始めることがあるかもしれません。

平らなまま質問してくる聞き手の前では、その気遣いは要らなくなるのではないか、と私たちは考えています。

インタビューの現場では

無名人インタビューの実際の回です。終盤に、語り手はこう話しました。

今、この一貫して自分が話した内容を頭ん中で反芻しててなんか思ってた以上に自分って孤独が怖いんだなっていうのを気づいたので、何か話せてよかったなって思いました。

── 未来。そうですね、どうなんだろう。難しいですね。なんか、あんまり何か、わかんないです。わかんない。わかんないです。人(無名人インタビュー)

話せてよかった、と語った場面です。

もうひとつ。子どもが困っているときに助けられる大人について語ったインタビューです。聞き手が「最後に、言い残したことや、もう一度言っておきたいことはありますか?」と尋ねたあとの、結びの言葉です。

(前略)子どもが困ってるときに助けてあげる大人がいっぱいいてくれたら良いなって思います。喋らせてもらって自分もスッキリしました。ありがとうございました!

── 子どもが困ってるときに助けてあげる大人がいっぱいいてくれたら良いなって思います。人(無名人インタビュー)

この語り手にとっては、最後まで話せたことが、「スッキリ」につながったようです。

今日から変えられる一手

入り口はひとつです。同調の表明を、質問に置き換える。

「大変でしたね」と言いそうになったら、「そのとき、どうしたんですか?」と聞く。「おつらいですね」の代わりに、「一番きつかったのは、どのあたりですか?」と聞く。

感情のコメントを返す代わりに、話の続きを聞く。質問の型は、法則13 共感しなくていいで見ました。

まとめ

法則14 平らに聴く

関心は全開のまま、同調だけを切る。相手の感情は受け取るが、自分の身体で鳴らさない。

聞くのが疲れるのは、共感力が足りないからではなく、同調と表示の二重労働をしているからかもしれません。

次の法則15では、聞いているうちに言いたくなる「アドバイス」を、どう質問に変えるかを見ていきます。


無名人インタビューについて

無名人インタビューは、2020年から続く一般の方へのインタビュー活動です。16人の制作メンバーが年間約400本、これまでに1,500本以上のインタビューを記事にしてきました。この記事の引用はすべて公開済みのインタビュー記事からのものです。

聞くことは愛すること。

公開

栗林康弘

このコラムを書いた人

栗林康弘(qbc)

無名人インタビュー主宰/聞く学校 校長/パーソナルコーチ

2020年に無名人インタビューを始めました。自分で872本のインタビューを聞き、423本を編集。いまは自分を含む16人の制作メンバーで年間約400本のインタビューを行い、これまでにのべ132名が聞き手・編集として参加しています。公開した実例は1,500本以上。聞き方の体系として「平聴(フラットリスニング)」を提唱し、2026年に「聞く学校」を開きました。1978年生まれ。(「聞いた」「編集した」は2026年6月30日、チームの本数は2026年8月1日時点)

栗林康弘のプロフィール →
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