傾聴を学んだことのある方から、よくこういう声を聞きます。相手の気持ちに寄り添って、共感して、最後まで真剣に聴く。教わったとおりにやっている。やればやるほど、疲れる。
聞き終わったあと、どっと消耗している。相手は満足した顔で帰っていくのに、こちらには相手の重さが残っている。これを続けたら自分がもたない、と感じて、人の話を聞くこと自体が億劫になっていく。
真面目に傾聴に取り組んだ人ほど、この壁に当たります。そして多くの場合、「自分の共感力が足りないからだ」と、逆の方向に反省してしまいます。
違います。疲れる原因は、足りないことではなく、やりすぎていることにあります。
「傾ける」は、コストが高い
傾聴という言葉には「傾」の字が入っています。相手に向かって、身体と心を傾ける。相手の感情に自分の感情を寄せていき、悲しい話なら一緒に沈み、うれしい話なら一緒に浮かぶ。
この「感情を寄せていく」という動きが、実は非常にコストの高い作業です。
相手が悲しみを話すたびに、自分の中にも悲しみを再現する。つらい話を聞くたびに、つらさを引き受ける。60分それをやれば、60分ぶんの他人の感情を、自分の身体で演算し続けたことになります。疲れて当然です。
さらにもうひとつ、リアクションの労働があります。ちゃんと共感していることを、表情で、相槌で、言葉で、示し続けなければいけない。「わかります」「大変でしたね」「おつらいですね」。相手のためというより、共感的な聞き手であるための演技が、ずっと続きます。
感情の同調と、同調の表示。傾聴が疲れるのは、この二重の労働を「良い聞き方」だと思って全力でやっているからです。
傾けずに、平らに聴く
私たちはこれを、傾聴に対して平聴(フラットリスニング)と呼んでいます。傾けて聴くのが傾聴なら、傾けずに、平らなまま聴く。
平聴では、相手の感情に自分の感情を同調させません。相手が悲しみを語っているとき、一緒に悲しまない。「大変でしたね」と言わない。代わりに、質問をします。「そのとき、どうしたんですか」「それは、いつ頃のことですか」。
冷たく聞こえるでしょうか。実際にやってみると、逆のことが起きます。
一緒に沈んでくれる聞き手の前で、人は途中で話をやめます。「ごめんね、暗い話しちゃって」と、聞き手を気遣い始めるからです。感情を背負ってくれる相手には、背負いきれない量までしか話せません。
平らなまま質問してくる聞き手の前では、その気遣いが要りません。どこまで話しても、この人は沈まない。だから、最後まで話せる。話し手にとって、平聴の聞き手は「いくら載せても傾かない台」のようなものです。
素人20人が、年間400件を聞けている理由
これが根性論ではないことの証拠が、私たちの活動そのものです。
無名人インタビューでは、約20名のインタビュアーが、年間400件、ひとり60分のインタビューをしています。2020年からの累計は1,500件を超えました。インタビュアーは全員、もともと「聞く」の素人です。カウンセラーでも記者でもない、普通の会社員や主婦や学生です。
もし聞くことが「相手の感情を背負う仕事」だったら、この体制は成立していません。素人が月に何本も、初対面の人の人生を——ときには相当に重い人生を——聞き続けるなど、燃え尽きて終わりです。
続いているのは、傾けていないからです。感情は背負わない。そのかわり、関心は全部注ぐ。この配分だから、聞くことが消耗ではなく、持続可能な行為になります。
平聴は、無関心ではない
誤解のないように書いておくと、平聴は「心を閉じて聞き流すこと」ではありません。切るのは感情の同調だけで、関心は最大です。
相手の話に全神経を向ける。何を言ったか、どんな言葉を選んだか、どこで言い淀んだか。そこには全力で注意を払います。ただ、相手が悲しいときに自分も悲しくなる、という回路だけを使わない。
注意は全開、同調はゼロ。この組み合わせは、日常の聞き方にはあまりないので、最初は奇妙に感じるかもしれません。でも、カウンセリングでも取材でもない私たちのインタビューが1,500件続き、話した人たちが「スッキリした」と言って帰っていくのは、この聞き方によるものです。
今日から変えられる一手
平聴の全体像は別の記事で詳しく書きますが、入り口はひとつだけ覚えれば十分です。
同調の表明を、質問に置き換える。
「大変でしたね」と言いそうになったら、「そのとき、どうしたんですか?」と聞く。「おつらいですね」の代わりに、「一番きつかったのは、どのあたりですか?」と聞く。
感情のコメントを返す代わりに、話の続きを聞く。これだけで、あなたの消耗は減り、相手はむしろ話しやすくなります。傾聴で疲れてきた方こそ、一度試してみてください。疲れずに聞けたとき、聞くことの印象が変わるはずです。
まとめ
傾聴が疲れるのは、あなたの共感力が足りないからではありません。感情の同調と、その表示という二重労働を、全力でやっているからです。
傾けずに、平らに聴く。関心は全開のまま、同調だけを切る。素人20人が年間400件を聞き続けられている事実が、この聞き方の持続可能性を証明しています。
無名人インタビューについて
無名人インタビューは、2020年から続く一般の方へのインタビュー活動です。約20名のインタビュアーが年間約400件、これまでに1,500件以上のインタビューを記事にしてきました。
- 平聴(フラットリスニング)の詳しい解説:近日公開 ※公開後にリンク設置
- インタビューを受けてみたい方:インタビューを受ける
- 聞き方を練習してみたい方:聞く学校(無料・オンライン)で、実際のインタビューを見て話し合っています
聞くことは愛すること。
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