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COLUMN

聞きにくいことを質問するコツは、決めつけないこと

病気のこと。お金のこと。家族のこと。仕事の失敗。——聞きたいけれど、聞いていいのかわからない。踏み込んで、相手を傷つけたらどうしよう。そう思って、聞きにくいことを飲み込んだ経験は、誰にでもあると思います。

でも、実際のインタビューの現場では、少し違うことが起きています。聞きにくいはずのことを、相手が自分から話していく。しかも、「誰にも言ってなかったこと」までです。

その場面で聞き手がやっているのは、勇気を出して踏み込むことではありません。決めつけずに聞くことです。

「誰にも言ってなかった」ことが話される瞬間

双極性障害の診断を受けた方のインタビューです。聞き手の質問は、診断がついたときの気持ちを、何も決めつけずに尋ねるものでした。

聞き手:どうでしたか、双極性障害だと実際に分かった時の気持ちとしては。

語り手:前から「なんかおかしいな」とは思ってて。中学生ぐらいの時から、理由もなくすごく気分が落ち込んで涙が止まらなくなるっていう事が定期的にあったんですね。これ多分鬱状態なんですけど、その時は本当に何でか分からなくて。親に泣いてることが見つかっちゃうと「なんで泣いてるの?」って聞かれるんですけど、 なんでなのかは自分でも分からないのでなんでって聞かれるのが嫌で隠してたんですよ。自分が理由なく定期的に泣いちゃったり、すごい死にたくなったりみたいなことを本当に誰にも言ってなくて。うまく説明ができなかったので、誰にも言ってなかったんですけれども「なんでだろう」ってずっと思ってて。

── 双極性障害Ⅱ型の人(無名人インタビュー)

「本当に誰にも言ってなくて」きたことが、初対面のインタビューで話されています。質問は「どうでしたか」——ショックだったでしょう、とも、受け入れられましたか、とも決めつけていません。決めつけていないから、語り手は自分の言葉で、中学時代まで遡って話すことができました。

聞きにくい話題を開くのは、踏み込む勇気ではなく、答えの余白です。

輪郭だけを確かめる

もうひとつ。相手の口から重い言葉が出てきたとき、その中身に踏み込まず、輪郭だけを柔らかく確かめる、というやり方があります。

風俗で働いていたことを「誰にも言えなかった」という語りの場面です。

聞き手:誰にもっていうのは、例えば学生時代のご友人とか、そういう感じなんでしょうか?

語り手:話すことはできたと思うんだけれども。ただ、風俗勤めというのがめちゃめちゃ、今はもう開き直ってるんでいいんですけれども。言えなかったんですよ。軽蔑されるとか。どんな理由があっても、やっぱりそういう、何かマイナスな面で見られてしまうっていう。気持ち悪いっていうふうに見られてしまうんじゃないかっていうことで。 結局誰にも言えなくて。

── 父親の奪った私の時間ちゃんと取り戻した人(無名人インタビュー)

聞き手は驚きも、評価も、慰めもしていません。「誰にも」という言葉の範囲を、柔らかく確かめただけです。それだけで語り手は、言えなかった理由——軽蔑への恐れ——まで、自分で言葉にしています。

重い言葉が出たときに一番怖いのは、聞き手が過剰に反応することです。息を呑まれたり、痛ましい顔をされたりした瞬間、話し手は「これは話してはいけないことだった」と学習します。決めつけずに、普通のトーンで輪郭を確かめる。それが「話し続けていい」という合図になります。

聞きにくいことは、聞かなくても出てくる

さらに言えば、聞きにくいことは、直接聞かなくても出てきます。

起業のきっかけを尋ねた、ごく普通のオープン質問への答えです。

聞き手:そもそも起業したきっかけって何ですかね。

語り手:私、専業主婦でこんなにお金が足りないんだっていう状況を、夫には言えなかったんです。サラリーマンの夫は夫で頑張ってくれてるから、お金足りないって言えなくて。なので、近くに住む父にずっと援助してもらってました。夫に内緒で。

── 自分で決めたことをやっていく人(無名人インタビュー)

お金のこと、夫婦のこと。「聞きにくいこと」の代表格が、「きっかけは?」というひとつの質問から出てきています。家庭内でも言えなかった秘密が、です。

話すかどうかを決めるのは、いつでも話し手です。聞き手の仕事は、こじ開けることではなく、話せる形の質問を置いて、選択権を相手に渡すことです。決めつけのない質問は、「どこから、どこまで話すかは、あなたが決めていい」という質問です。だから、話せるのです。

まとめ

聞きにくいことを聞くコツは、勇気ではありません。決めつけないことです。

「ショックでしたよね」ではなく「どうでしたか」。中身に踏み込む前に、輪郭を確かめる。そして、答えの範囲は相手に委ねる。この形なら、聞きにくい話題は、相手が話したいぶんだけ、相手の言葉で開いていきます。

逆に言えば、決めつけた瞬間に、どんなに軽い話題でも聞けなくなります。聞きにくさは話題の側ではなく、質問の形の側にあるのです。


無名人インタビューについて

無名人インタビューは、2020年から続く一般の方へのインタビュー活動です。約20名のインタビュアーが年間約400件、これまでに1,500件以上のインタビューを記事にしてきました。この記事の引用はすべて公開済みのインタビュー記事からのものです。

聞くことは愛すること。

公開

栗林康弘

このコラムを書いた人

栗林康弘(qbc)

無名人インタビュー主宰/聞く学校 校長

2020年に無名人インタビューを始めました。自分で872人の話を聞き、423本を編集。いまは16人の制作メンバーとともに年間約400件のインタビューを行い、これまでにのべ132名が聞き手・編集として参加しています。公開した実例は1,500件以上。聞き方の体系として「平聴(フラットリスニング)」を提唱し、2026年に「聞く学校」を開きました。1978年生まれ。(2026年8月21日現在)

栗林康弘のプロフィール →
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