自分軸を意識して生きるようにしたら、まわりとぶつかるようになった。断ることが増えて、距離を置かれるようになった。自分軸がうざい、と言われた。そういう経験がある方に向けて書きます。
先日、SNSでこんな趣旨の投稿を見かけました。自分軸という考え方を真に受けすぎて、ただのわがままになっている人が多いのではないか、というものです。
たしかに、そう見える場面はあります。ただ、これはわがままだから起きることではありません。自分の物語を作る作業の途中で、工程がひとつ抜けているために起きることだと考えています。
自分軸は、チロルチョコに似ている
自分軸、他人軸、会社軸、ブレない軸、しなやかな軸。呼び方は変わっても、構造はどれも同じです。「一本の基準を持ちましょう」という型に、味だけが入れ替わっています。
新しい味が出るたびに、私たちは手に取ります。試してみて、しばらく使って、また次の味が出たら手を伸ばす。これは悪いことではありません。 新しいものを試しながら生きる人生は、それ自体は明るく、楽しいものです。自己啓発のブームそのものを批判したいわけでも、乗っている人をおかしいと思っているわけでもありません。
問題は、味を選び続けることと、自分で味を作ることが、別の話だという点です。
美容院の流行と同じ循環
流行の髪型にも、似た構造があります。ロングを伸ばせば髪は傷み、傷んだ髪を切ればショートが流行り、伸びかけの長さにはボブが来る。前の流行が作った傷みが、次の流行の需要になっています。
美容師が意図して髪を傷ませているわけではありません。流行が回った結果として、そうなっているだけです。美容院そのものを否定する話でもありません。
生き方の分野でも、同じ循環が起きます。自分軸を実践して周囲との関係が壊れた人には、次に協調性が売られます。協調性に取り組みすぎて自分を消した人には、また自分軸が売られます。
ブームは、片輪ずつ売られている
人が生きていくには、二つの力が要ります。常識を疑う力と、常識に染まる力です。
疑う力だけがあると、何を言われても押しつけだと跳ね返してしまいます。染まる力だけがあると、周りに合わせすぎて、自分が何を望んでいたのか見失います。
自分軸ブームが売っているのは、疑う力の看板だけです。協調性ブームが売っているのは、染まる力の看板だけです。片輪の自転車には乗れません。 乗った人は転び、転んだ人には次の片輪が売られます。
これを売る側の悪意だと言うつもりはありません。売る側もそこまで意図してはおらず、たいていは善意です。ただ、構造としてそうなっている、というだけの話です。
抜けているのは「認めさせる工程」
生き方の分野で長く使えるのは、軸ではなく、自分独自の物語――自分の常識を作る力だと考えています。この作業には、二つの段階があります。自分にとって本当にやりたいことを見つけることと、それを周りにも認めさせることです。
自分軸ブームが売っているのは、前半だけです。見つけたところで終わりにして、認めさせる後半には触れません。
見つけたやりたいことを、周りがすぐには認めないことがあります。そこで、周りのほうが間違っていると考えて、押し通そうとする。これが、わがままに見えてしまう人の実際の姿です。わがままなのではなく、「認めさせる工程」を教わっていないだけです。
まとめ
自分軸を実践してまわりとぶつかったとしても、それは性格が悪くなったからではありません。見つける工程だけを終えて、認めさせる工程を教わっていない、という状態です。
軸は一本の棒で、ブレてはいけないものとされています。物語はそれとは違います。周りに差し出し、受け取ってもらいながら、作り直していけるものです。
疑う力と、染まる力。両方があって、はじめて前に進みます。片方だけを掲げているうちは、何度でも転びます。
自分軸というチロルチョコの新しい味を、これからも誰かが出し続けるはずです。手に取って試すのは、悪いことではありません。ただ、味を選ぶ側にずっといるのか、いずれ自分で味を作る側に回るのかは、別の話として残しておいてください。
この話の長い版(エッセイ)はnoteにあります:https://note.com/unknowninterview/n/n35b84a02a3c0
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