無名人時計主宰の書斎
COLUMN

意地悪な人を「頑張って無視する」が、いちばん疲れる理由

意地悪な人に出会ったとき、どう対処すればいいのか。自己肯定感を上げる方法より、目の前に現れた意地悪にどう対応するかのほうが、ずっと切実です。

SNSで、まさにそういう趣旨の質問をもらったことがあります。返信では、物理的な場面なら離れる、デジタルな場面ならブロックする、と伝えました。すると、真面目に受け取ってしまうのがそもそもの間違いだった、これからは頑張って意識する、という丁寧な返事が届きました。

一見、誠実で前向きな言い換えに見えます。でも、ここには落とし穴があります。頑張って無視する、というのは、無視ではありません。

対処しようとすること自体が、厄介です

人はボールを投げられると、つい捕ってしまいます。考えるより先に、手が出るのです。

意地悪な言葉も同じです。投げられた瞬間、受け止めて、意味を考えて、傷ついて、どう返そうか考えてしまいます。来たものには、つい対応してしまう。

対処法は、対処しないことです。問われるべきなのは、その「つい捕ってしまう」反射を、どう発動させないでおくかだけです。

「頑張って、意識します」

真面目に受け取ってしまうのが、そもそもの間違いだった。受け取るかどうかは、自分の側で決められる。だから、これから頑張って意識する——。そうした趣旨の返事は、一往復のやり取りでここまで言葉を組み立て直した、誠実なものでした。

けれど、引っかかる点があります。伝えたかったのは、何も考えずに無視するということでした。判断という工程そのものを通さない、という話のつもりでした。それがいつのまにか、無視するという新しい課題を、頑張って、意識して、実行する話にすり替わっています。

判定機は、一台しかない

心の中に、判定機が一台あるとします。これは医学や心理学の用語ではなく、聞く仕事をしてきた中での私の見立てです。起きた出来事は、すべてそこに通されます。受け取るべきか、正しかったか、自分の反応は間違っていなかったか。何が来ても、一台の機械が一件ずつ判定します。

昔の私が、まさにこれでした。だから、さきほどの返事も、この判定機で組み立て直したものに見えました。まず「真面目に受け取るのは間違いだった」と正誤を出す。次に「受け取るかどうかは自分が決める」と、決定の担当を機械に登録する。最後に「頑張って意識します」と、稼働を宣言する。書いていて冷や汗が出ます。ぜんぶ、私がやっていた工程だからです。

機械に通さないボールがあっていい、という話が、機械に通される。そして、通さないことを機械が毎回決める、という新しい業務になって出てくる。これは、不器用な人に起きることではありません。逆に、来るものをすべて一台で処理できてしまう、働き者の判定機を持っている人に起きることです。そして機械の外側があることは、たぶん誰も教えてくれません。

もっとも、これは礼儀正しい返事だっただけかもしれません。自己投影の可能性は、十分にあります。

頑張る無視は、見張りをひとり増やすだけ

「頑張って無視する」を実際にやってみると、こうなります。ボールが飛んでくる。まず「これは無視すべき案件だ」と判定する。次に、無視を実行する。そして「いま、ちゃんと無視できているだろうか」と監視する。

処理は、一件も減っていません。むしろ「無視の実行状況の監視」という仕事が、一件増えています。ボールを捕らないために、ボールを見つめ続ける係を、自分の中に新しく雇うことになるのです。

無視は本来、休みのはずです。それが業務になった瞬間、休む場所がどこにもなくなります。

まとめ

意地悪な人への対処法は、探せば探すほど、頑張って意識するという新しい仕事に化けてしまうことがあります。対処法を探すこと自体が、実は「つい捕ってしまう」反射の延長になっているからです。

対処法は、対処しないことです。判定する・実行する・監視する、という三つの仕事を自分の中に増やさず、そもそも機械に通さないでおく。頑張る無視は、見張りをひとり増やすだけで、休みにはなりません。

意地悪な人と出会ったとき、まず疑ってみる価値があるのは、相手への対処の仕方より、自分の中で反射的に動き出す判定の仕組みのほうかもしれません。

この話の長い版(エッセイ)はnoteにあります:https://note.com/unknowninterview/n/n4544434a3ce1


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公開

栗林康弘

このコラムを書いた人

栗林康弘(qbc)

無名人インタビュー主宰/聞く学校 校長/パーソナルコーチ

2020年に無名人インタビューを始めました。自分で872本のインタビューを聞き、423本を編集。いまは自分を含む16人の制作メンバーで年間約400本のインタビューを行い、これまでにのべ132名が聞き手・編集として参加しています。公開した実例は1,500本以上。聞き方の体系として「平聴(フラットリスニング)」を提唱し、2026年に「聞く学校」を開きました。1978年生まれ。(「聞いた」「編集した」は2026年6月30日、チームの本数は2026年8月1日時点)

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