これまでのインタビューで、「我慢」という言葉を、何度も聞いてきました。子どものころの家の空気、学校の部活、会社の上下関係。場所は違っても、同じ言葉が繰り返し出てきます。
多くの場合、それは「我慢した」という報告ではなく、我慢していたことに、あとから気づいた、という形で出てきます。我慢が癖になっていると、それが我慢だとは、あまり意識されていないようでした。
この記事では、我慢がどう身につき、続けるとどうなるか、そこからどう抜けられるかを、聞いてきた語りをもとに考えます。
我慢は、習慣になる
我慢は、育つ場所で教わることが多いようです。
40代の女性は、子どものころ、家に「子供がわがまま言うたらアカン空気がめちゃくちゃあって」と振り返ります。祖父の言うことが絶対の家で、何が欲しいか、何がしたいかを、自然に我慢するようになったといいます。
フリーランスのエンジニアは、体育会系の両親のもとで育ちました。「石の上にも三年」を信じる家で、部活も塾も中高一貫校も大学のサークルも、合わなくてもやめられませんでした。
看護師の女性も、五人きょうだいの中で、迷惑をかけないようにと気を配りながら育ちました。
海外に移った料理人は、日本の和食屋での修業時代を「封建的な社会」と振り返ります。先輩に意見をすれば、次の日から仕事が回ってこない。そういう場所で、10年働きました。
家でも、学校でも、職場でも、我慢は教わるもののようです。
一方で、会社を経営する大学生は、少しちがう育ち方をしています。「我慢をあんまりせずに育った」と話し、もし我慢しなければならない環境にいたらどうしたかを聞くと、「我慢しなきゃいけない環境を変えようと思ったんですかね」と答えます。我慢を教わらなかった人も、たしかにいます。
自分が何をしたいのか、わからなくなる
我慢を続けていると、何が起きるのでしょうか。
40代の女性は、大学に入ったころ、「自分が何考えてるか全然わかんなくなって」、立ち止まってしまったと話します。自分の思いを、長く封印してきた反動だったといいます。
看護師の女性も、「自分の好きなことが分からない」と話します。楽しさやわくわくは、本当になかったと振り返ります。
Gross & John(2003)という論文があります。気持ちの扱い方を「とらえなおし(気持ちがわく前に、状況の意味づけを変える)」と「抑え込み(わいた気持ちを、表に出さないようにする)」の二つに分け、これをふだんの習慣としてどれだけ使うかを、複数の調査で調べたものです。抑え込みを習慣にしている人は、自分が何を感じているかがはっきりせず、いい気持ちを感じることも少なく、それでいて嫌な気持ちはかえって多いと報告されています。本当の自分とちがう自分を見せている、という感覚が背景にあるようです。
海外のホステルで働いていた人は、同室の二人が騒がしく、3日我慢したすえに爆発しました。すると相手から、「なんで言ってくれなかったの?」と言われています。抑え込んでいることに、周りは気づいていることがある、という報告と重なります。
(相関を調べた研究で、対象は米国の大学生です。)
抜ける道は、三つ
我慢から抜ける道は、聞いてきた語りをたどると、大きく三つに分かれます。
一つめは、言う。40代の女性は、高校で、言いたいことを言ってもいい空気に出会い、我慢するより楽だと気づいたそうです。海外のホステルで働いていた人は、そこまで溜め込む前にできることがあった、と振り返っています。怒ることについても、「自分の境界線を自分で決める」ための手段だと話しています。
二つめは、場所を変える。フリーランスのエンジニアは、「合わなかったら、合う環境を探せばいい」と言います。会社を2回辞めようとして引き止められ、押し通せず、休職を経てフリーランスになりました。料理人も、体を壊して入院したのち、家族と一緒に日本を離れました。会社を経営する大学生は、最初から、我慢しなくていい場所を選んでいます。
三つめは、とらえなおす。看護師の女性に、インタビューで「我慢してきたことを3つぐらい上げてみてください」と聞いたことがあります。お金、子育て、仕事、夫婦、親のことが挙がりました。お金以外は人間関係の話だったので、「全部人間関係で我慢してんのかな」と伝えたところ、「我が強いんでしょうね」という言葉が返ってきました。そこで、「我が強いと言うよりかは表現力かと思うんですよね」と返しました。同じことでも、見方を変えると、違う言葉になります。これは、Gross & John(2003)が「とらえなおし」と呼んでいるものに近い読み方です。
ただし、我慢そのものが、すべて悪いわけではないようです。会社を経営する30代の男性は、「我慢はした方がいいし(中略)リミットを決めようねって」と話しています。Gross & John(2003)の著者も、抑え込みが最善、あるいは唯一の手になるときがある、と書いています。私自身、以前のインタビューで、こう話したことがあります。「何の対策も練らずにただ待つっていうのは我慢なんですよね。対策しまくって、でも動かないから待つって時はあるし、それは受け入れるべき」。
場所を変えるのは、高くつく
我慢しないですむ場所に移ることは、たしかに一つの道です。ただ、これは同時に、コストの高い道でもあります。
転職、離婚、一人暮らし。場所を変えることは、時間もお金も、気力もかかります。エネルギーを使えば、まわりにも影響が及びます。
だから、場所を変える前に、まず言う、まずとらえなおすで、力をためる。考える時間を作る。
コーチングは、言う場所で、とらえなおされる場所
コーチングは、言う場所であり、とらえなおされる場所です。
そして私は、起業コーチやビジネスコーチもしています。だから、場所を変えるかどうか、転職や離婚についても、相談できます。
人生を見ている人のコーチングというのは、こういうことです。
参考文献
Gross, J. J., & John, O. P. (2003). Individual differences in two emotion regulation processes: Implications for affect, relationships, and well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 85(2), 348–362.
https://doi.org/10.1037/0022-3514.85.2.348
本文中の論文の説明は、この論文を私が要約したものです。
まとめ
我慢は、家や学校、職場で、知らないうちに身につく習慣のようです。続けていると、自分が何をしたいのか、何が好きなのか、だんだんわからなくなっていくことがあります。
抜ける道は、言う、場所を変える、とらえなおす、の三つです。場所を変えるのは、コストが高く、疲れます。だから、まず言う、まずとらえなおすで、力をためておく。考える時間を作っておく。
我慢がすべて悪いわけではありません。リミットを決めて受け入れる我慢もあります。それでも、我慢していることに気づかないまま続けていないか、ときどき立ち止まって見直す価値はありそうです。
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聞くことは愛すること。
コーチングについては、何をするのかと向いている人、向いていない人にまとめてあります。
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